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ノウハウ秘匿・先使用権制度の効果的な利用方法(2) [知財コンサルティング]

(ノウハウ秘匿・先使用権制度の効果的な利用方法(1)の続き)

4.先使用権立証のための証拠

 先使用権立証のための証拠(資料)については、確保可能な時点ごとに、すなわち研究開発段階、発明の完成段階、発明の事業化に向けた準備が決定された段階、事業の準備の段階、事業の開始及び事業を継続している段階、および実施形式などの変更の段階で、それぞれ収集し、保管することが有効である。先使用権立証のための証拠としては、大きく分けて、技術関連書類、事業関連書類、製品等の物自体、映像などがある。

 技術関連書類の証拠としては、研究ノート、技術成果報告書、または設計図・仕様書等がある。これらの書類を作成し、保存することが有効である。

 ・研究ノートを作成する際には、頁の差し替えができないノートを準備し、筆記具としてボールペンなどを用い、頁番号順に用いることに留意する。また、使用開始日、保管期限、保管者などを必ず記載する。
 ・技術成果報告書を作成する際には、作成日などの日付を特定するための情報と、実験の目的、実験方法、実験結果、結論、成果等の技術内容を特定するための情報とを記載した上で、作成者の署名を行う。
 ・設計図・仕様書を作成する際には、作成日などの日付を特定するための情報と、製品名や品番等の対象物との一致性を特定するための情報と、実施事業の技術的内容を特定するための情報を記載する。

 事業関連書類の証拠としては、事業計画書、事業開示決定書、見積書・請求書、納品書・帳簿類、作業日誌、カタログ・パンフレットなどがある。これら書類を作成し、保存することが有効である。

 ・事業計画書とは、新製品の開発の着想からその新製品の企画の方針を決定していくまでに作成される書類である。事業計画書には、たとえば製品名などの対象物との一致性を特定するための情報と、日付を確定するための情報と、即時実施の意図等を認定するに足りる情報とが記載されていることが必要である。
 ・事業開始決定書とは、組織における実施事業の開始の最終的な意志決定を示す書面である。事業開始決定書は、事業名や事業内容等の項目により即時実施の意図等を認識でき、決済日などにより実施事業の時期を認識できることにより、その発明の実施事業の準備の状況とその時期とを認定するための証拠となり得る。
 ・見積書・請求書、納品書・帳簿類は、外部企業との取引に関するものであり、先使用権を立証するための証拠となり得る。これらが証拠の一つとなり得るためには、これらがいつ、誰が(誰に)、何に対して発行されたものかが明確であることが重要である。
 ・作業日誌は、日々の作業実績(品名、作業名、生産数、作業時間など)が記録されたものである。たとえば品名等の項目により先使用権に係る発明製品との一致性が認識され、生産数、作業時間、機械運転時間、材料仕様および加工条件等の項目により実施事業の内容・状況が認識され、日付等の項目により実施事業の時期が認識される。
 ・カタログ・パンフレット類は、その他の資料に記載されたノウハウが事業の段階にあることを客観的に示す材料となる。一方で、カタログ・パンフレット類は頒布される性格を有するので、ノウハウを直接記載した場合にはそのノウハウが公知になるということに留意する。

 製品(物)自体を残す手法としては、その製品を容器に入れて確定日付を付してもらう手法、鑑定書を作成する手法などがある。

 ・製品が容器内に密封できる程度の大きさである場合には、製品の説明文等を記した私署証書に対して公証人に確定日付を付してもらう。次に製品を容器に入れ、私署証書を容器に貼付する。この際、容器の封印状態が分かるように私署文書を容器に添付し、かつ公証人に確定日付印を容器に押印してもらう。その後、封を開けずにその容器を保存しておく。なお、封を開けなくとも容器内の製品が確認できるようにするために、容器内の製品と同一物を別の容器に入れて同様に保存することが望ましい。
 ・経時変化が起こりやすい物の場合、その物のサンプルを鑑定に出して鑑定書を作成する。

 文書で表現しにくい物、たとえば物体の動き、液体の流れる様子もしくは音などは、映像として残すことが有効である。

 ・たとえば、映像を保存したDVDディスクを、上述の製品自体を残す手法と同様の方法で、確定日付を付した容器に保管する。
 ・映像の電子データにタイムスタンプを付してもらう手法も考えられる。タイムスタンプサービスとは、電子データに時刻情報を付与することにより、その時刻にそのデータが存在し、またその時刻から検証した時刻までの間にその電子データが変更・改ざんされていないことを証明する民間のサービスである。

 工場における製造方法などについては、公証人に事実実験公正証書を作成してもらうことも有効である。

 ・事実実験公正証書は、公証人が五感の作用で直接体験した事実に基づいて作成する公正証書である。作成された事実実験公正証書は、作成された翌年から20年間公証人役場で保管される。事実実験公正証書を証拠として利用する場合には、たとえば、公証人を工場に招き、使用する原材料や機械設備の構造や動作状況、製造工程などについて直接見聞してもらい、公証人が認識した結果を公証人に記載してもらう。


5.開発した技術について特許出願せずノウハウ秘匿とする場合の注意点のまとめ

 自社が開発した技術について特許出願せずノウハウ秘匿とする場合には、技術の漏洩が完全に防止されれば、他社の模倣を有効に防げることができる。しかし、万が一その技術に関する特許権を他社に取得されると、自社の実施が特許権侵害となる可能性がある点に注意する。

 自社が開発した技術を不正競争防止法上の営業秘密として管理することによって、その技術(営業秘密)を他社に不正に取得されることを妨げることができる。しかし、この場合には、他社に不正に取得されたことを自ら立証しなくてはならない点に注意する。

 自社が開発した技術に関する特許権を他社に取得された場合に、自社の実施を確保できるようにするために、たとえば上記項目4.に記載の方法で、先使用権立証のための証拠を確保しておく必要がある点に注意する。

 先使用権が認められる範囲は「その実施又は準備をしている発明及び事業の目的の範囲内」であり(特許法第79条)、過去の裁判例によればこの範囲は個別事件毎に判断されている。このため、自社の実施形式を、他社の特許出願の際に実施又は準備していた実施形式から変更すると、変更後の実施形式が「その実施又は準備をしている発明及び事業の目的の範囲内」の実施に該当しなくなる可能性があり、その結果先使用権が認められなくなる可能性がある点に注意する。


椿特許事務所
弁理士IT

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