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クレーム解釈における「発明の詳細な説明の記載」の参酌の可否 [クレーム(特許請求の範囲)研究]

平成18年(ネ)第10007号(知的財産高等裁判所第1部)(抜粋)

 ・・・
2  本件特許発明の技術的範囲の解釈について

(1) 特許法70条1項は,「特許発明の技術的範囲は,願書に添付した特許請求の範囲の記載に基づいて定めなければならない。」,同条2項は,「前項の場合においては,願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮して,特許請求の範囲に記載された用語の意義を解釈するものとする。」と規定しているところ,元来,特許発明の技術的範囲は,同条1項に従い,願書に添付した特許請求の範囲の記載に基づいて定められなければならないが,その記載の意味内容をより具体的に正確に判断する資料として明細書の記載及び図面にされている発明の構成及び作用効果を考慮することは,なんら差し支えないものと解されていたのであり(最高裁昭和50年5月27日第三小法廷判決・判時781号69頁参照),平成6年法律第116号により追加された特許法70条2項は,その当然のことを明確にしたものと解すべきである。

ところで,特許明細書の用語,文章については,①明細書の技術用語は,学術用語を用いること,②用語は,その有する普通の意味で使用し,かつ,明細書全体を通じて統一して使用すること,③特定の意味で使用しようとする場合には,その意味を定義して使用すること,④特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とは矛盾してはならず,字句は統一して使用することが必要であるところ(特許法施行規則様式29〔備考〕7,8,14イ),明細書の用語が常に学術用語であるとは限らず,その有する普通の意味で使用されているとも限らないから,特許発明の技術的範囲の解釈に当たり,特許請求の範囲の用語,文章を理解し,正しく技術的意義を把握するためには,明細書の発明の詳細な説明の記載等を検討せざるを得ないものである。

また,特許権侵害訴訟において,相手方物件が当該特許発明の技術的範囲に属するか否かを考察するに当たって,当該特許発明が有効なものとして成立している以上,その特許請求の範囲の記載は,発明の詳細な説明の記載との関係で特許法36条のいわゆるサポート要件あるいは実施可能要件を満たしているものとされているのであるから,発明の詳細な説明の記載等を考慮して,特許請求の範囲の解釈をせざるを得ないものである。そうすると,当該特許発明の特許請求の範囲の文言が一義的に明確なものであるか否かにかかわらず,願書に添付した明細書の発明の詳細な説明の記載及び図面を考慮して,特許請求の範囲に記載された用語の意義を解釈すべきものと解するのが相当である。

(2) 控訴人は,従来技術から明確になる事柄については,発明の詳細な説明の記載等により限定して解釈すべきではないとし,本件特許発明において,その特許請求の範囲は,従来技術を考慮すれば,当業者にとって,一義的に明確なものであるから,何ら限定解釈を加える理由はないのであって,本件特許発明の技術的範囲を限定的に解釈した上で,被控訴人製品が本件特許発明の構成要件を充足しないとした原判決の認定判断は誤りであると主張する。

しかし,上記のとおり,特許権侵害訴訟においては,特許請求の範囲の文言が一義的に明確であるか否かを問わず,発明の詳細な説明の記載等を考慮して特許請求の範囲の解釈をすべきものであるから,従来技術から明確になる事柄について,それ以上発明の詳細な説明の記載等から限定して解釈すべきではないとする控訴人の主張は,そもそも,誤りである。

我が国の特許制度は,産業政策上の見地から,自己の発明を公開して社会における産業の発達に寄与した者に対し,その公開の代償として,当該発明を一定期間独占的,排他的に実施する権利(特許権)を付与してこれを保護することにしつつ,同時に,そのことにより当該発明を公開した発明者と第三者との間の利害の調和を図ることにしているものと解される(最高裁平成11年4月16日第二小法廷判決・民集53巻4号627頁参照)。本件原出願(昭和59年10月2日出願)に適用される昭和60年法律第41号による改正前の特許法36条4項が「第2項第3号の発明の詳細な説明には,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度に,その発明の目的,構成及び効果を記載しなければならない。」(いわゆる実施可能要件),同条5項が「第2項第4号の特許請求の範囲には,発明の詳細な説明に記載した発明の構成に欠くことができない事項のみを記載しなければならない。ただし,その発明の実施態様を併せて記載することを妨げない。」(いわゆるサポート要件)と定めているのも,発明の詳細な説明の記載要件という場面における,特許制度の上記趣旨の具体化であるということができる。

したがって,特許請求の範囲の記載に基づく特許発明の技術的範囲の解釈に当たって,何よりも考慮されるべきであるのは,公開された明細書の発明の詳細な説明の記載等であって,これに開示されていない従来技術は発明の詳細な説明の記載等に勝るものではない。

仮に,控訴人主張のとおり,特許発明の技術的範囲の解釈において,従来技術から明確になる事柄については,それ以上発明の詳細な説明の記載等により限定して解釈すべきではないとすることが許されるならば,発明の詳細な説明の記載等とは無関係に,特許請求の範囲の解釈の名の下に,随意に新たな技術を当該発明として取り込むことにもなりかねず,このような結果が,上記発明の公開の趣旨に反することは明らかである。

(3) 以上のとおり,特許発明の技術的範囲の解釈に当たって,一義的に明確なものであれば,発明の詳細な説明の記載等により限定して解釈すべきではないとする控訴人の主張は,独自の議論であって,採用し得ないものというべきである。

 ・・・


【問題】

(1)侵害事件におけるクレーム解釈に当たって、上記判決のように発明の詳細な説明の記載が考慮されるものとした場合、「どの程度」それを考慮すべきか?(あなたが、またはあなたの代理人が請求項に記載した「表示手段」や「伝達部材」などの語の全ては、侵害事件において、その実施例中の液晶ディスプレイや歯車であるものとして限定解釈されるのか?)

(2)侵害事件におけるクレーム解釈に当たって、上記判決のように発明の詳細な説明の記載が考慮されることを考えた場合に、「強い特許」を取得するために、出願時点でどのような策をとるべきか?

(3)日本以外の各国で得た特許のクレーム解釈に当たって、発明の詳細な説明の記載が考慮されるか?されるのであれば、出願時点でどのような策をとるべきか?


椿特許事務所
弁理士TY

出願時のクレームチェックリスト [クレーム(特許請求の範囲)研究]

【審査対応の観点から】

□ クレームの明確性(特許法第36条6項2号)
  ・クレームだけを見て発明が理解でき、クレームだけを見て発明概念の図が書けること(読み手の立場に立って書いていること、説明・議論をしなくても、実施例を読まなくても発明が理解できること)

□ 実施例でクレームのサポートができている(36条6項1号)
  ・クレームが広すぎないこと、「発明」以外のものを含まないこと

□ 新規性を有する(29条1項)
  ・クレームの範囲に、先行技術、あたりまえの技術を含まないこと

□ 進歩性を有する(29条2項)
  ・クレーム中に進歩性を主張できる特徴部分があること


【権利化後の観点から】

□ 可能な限り広い権利範囲を有する、及び不要な限定がない(70条)
  ・侵害者側の立場で、回避策、抜けがないか見ること

□ 侵害立証がし易いクレームである(民訴法の観点)
  ・権利行使のときに何を立証する必要があるか、立証不可能な構成がクレームに含まれていないか。工場内で行われる行為、CPU内での動作、目に見えない部分をクレームするときは特に慎重に。
  ・システムだけではなくそれを構成する装置、装置だけではなくそれを構成する部品、装置だけでなく方法・プログラム、物だけではなく中間物、及び別の観点から見たクレームの記載が可能かを検討する。

□ 広→狭のサブクレームが段階的にある
  ・特に、有効な中位概念クレームがあり、仮にメインクレームが無効となったとしても、特許を有効に維持できること


【将来の補正・訂正を考えて】

□ 発明の特徴部分は、将来のクレーム補正・訂正を考えて、明細書中に十分に詳細に、細かく記載している
  ・引例・先行技術の回避が容易となるよう、引例(文献)に通常記載されていないような、細かな構成・処理(およびそれらの効果)が明細書中に記載されていること


椿特許事務所
弁理士TY

シングルミーンズクレーム [クレーム(特許請求の範囲)研究]

米国MPEP
2164.08(a) Single Means Claim

A single means claim, i.e., where a means recitation does not appear in combination with another recited element of means, is subject to an undue breadth rejection under 35 U.S.C. 112, first paragraph. In re Hyatt, 708 F.2d 712, 714-715, 218 USPQ 195, 197 (Fed. Cir. 1983) (A single means claim which covered every conceivable means for achieving the stated purpose was held nonenabling for the scope of the claim because the specification disclosed at most only those means known to the inventor.). When claims depend on a recited property, a fact situation comparable to Hyatt is possible, where the claim covers every conceivable structure (means) for achieving the stated property (result) while the specification discloses at most only those known to the inventor.

シングルミーンズクレーム(他のmeansの組み合わせとしてmeansが記載されていないクレーム、例えばmeans1つだけからなるクレームなど)は、不当に広いものであるとして、米国では112条第1パラグラフにより拒絶される。

確かに、35 U.S.C. 112(Specification)第6パラグラフにおいても、

An element in a claim for a combination may be expressed as a means or step for performing a specified function without the recital of structure, material, or acts in support thereof, and such claim shall be construed to cover the corresponding structure, material, or acts described in the specification and equivalents thereof.

と規定されている。

シングルステップクレームも同様に扱われる。また、構成、物質、または行為(acts)により定義される要素(特定の機能を実現するためのmeansやstepでないもの)であれば、単一の要素としてクレームに記載できるものと考えている。

このような扱いは、米国だけであると思う(勿論、他の国でも記載不備で拒絶される可能性はある)。

椿特許事務所
弁理士TY

アッセ株式会社v.マイクロソフト株式会社、版下デザイン装置事件再読 [クレーム(特許請求の範囲)研究]

平成11年(ワ)第1346号 損害賠償請求事件(アッセ株式会社v.マイクロソフト株式会社)

【特許の内容】
 第1特許権:キャラクタ弓型配列特許(特許番号第2613766号)
 発明の名称:「版下デザイン装置」

 (クレームの構成要件)
 ① 描画すべきキャラクタ列の各キャラクタデータを入力する手段と、
 ② 上記キャラクタ列を弓型に配列すべきことが指定されているとき、上記キャラクタ列のうち最初のキャラクタの描画始点を表す第一点の位置と、上記キャラクタ列のうち最後のキャラクタの描画終点を表す第二点の位置と、描画すべき弓型配列の高さを表す第三点の位置とを指定するデータを入力する手段と、
 ③ 上記第一点から上記第三点を通って上記第二点に至るまでの円形又は楕円形の一部を表すキャラクタ配列軌跡を演算する手段と、
 ④ キャラクタ配列軌跡上に上記キャラクタ列の各キャラクタを割り付けると共に、当該割り付けられた各キャラクタの大きさ及び回転角を決定する手段と、
 ⑤ 上記キャラクタ列の上記割り付けられた一つのキャラクタと、次のキャラクタとの関係で、間隔を変更するか否かを判断する手段と、
 ⑥ 間隔の変更が必要であるとの判断結果が得られたとき、上記次のキャラクタを所定量だけ移動させる手段と
 ⑦ を具えることを特徴とする版下デザイン装置
(第2、第3特許に関しては省略)

【イ号物件】
イ号物件一
 マイクロソフトオフィスに含まれるワードアートにおいて、キャラクタを楕円又は円軌道上に配列するためのプログラムを、コンパクトディスク盤上の所定のアドレス位置にピットの形態又はハードディスク上の所定のアドレス位置に磁化領域の形態で固定記録させた記録媒体
(イ号物件二、三については省略)

【主な論点】
(1)イ号物件、またはイ号物件を組み込んだコンピュータは、クレーム構成要件を充足するか。
(2)間接侵害の成立性。
(3)イ号物件の特定の程度(立証の程度)。

【判決】
・原告請求を棄却(控訴審へ)
・(1)、(3)に関しては、「イ号物件がクレーム構成要素を充足していることを認めるに足りない」、「充足することが立証されていない」ことが主な理由。
・(2)に関しては、「そもそも原告の第一特許発明及び第三特許発明1、2は版下デザイン装置、また第二特許発明は版下デザイン方法であるのに対して、イ号各物件は、文書処理のための汎用プログラムを固定記録させた記録媒体の一部であって、これを組み込んだパソコン等の機器は、汎用文書処理装置であって「版下デザイン装置」ではなく、また、右機器により実現される方法は「汎用文書処理方法」であって、「版下デザイン作成方法」ではない。したがって、イ号各物件は、第一特許発明及び第三特許発明1、2との関係では特許法一〇一条一号にいう「その物の生産にのみ使用する物」ではなく、第二特許発明との関係では、同条二号にいう「その発明の実施にのみ使用する物」ではないから、間接侵害を構成するものでもない。」と判示。

【実務メモ】
(1)「演算方法」など目には見えない部分を特徴とする特許権の侵害立証の困難性について理解する。訴訟提起前に、立証の可能性(および、そもそも本当に侵害していると主張できるのか)については十分に判断する必要がある。
(2)明細書作成時には、人間の目に見える「結果」で発明を特定できるクレームの作成を配慮する(勿論、先行技術からそれが難しい場合もある)。
(3)間接侵害に関して現在では、「プログラム」を対象としたクレーム起草が可能になっているので、今後本件のような論点は減ってくるものと思われる。「一太郎事件」(H17. 2. 1 東京地裁 平成16(ワ)16732)も参照のこと。

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【日誌(ログ)】
昨日は、明るく魅力的な弁理士であるT先生にお越し頂き、TM実務について授業をして頂く。一緒にハービス地下でパスタを食べる。久しぶりに楽しい昼ご飯。(最近は、大阪駅前ビルの地下食堂で一人寂しく食べていることが多い)。T先生、暑い中、貴重な時間を本当にありがとうございました。
所員NMは、研修のため天満研修センターへ(暑い中、お疲れ様でした)。仕事に溺れるだけでなく、皆毎日、少しずつでもいろいろな情報を吸収してゆけたらよいなと思う。

椿特許事務所
弁理士TY

特許請求の範囲の研究:United States Patent 7,362,999(5/2) [クレーム(特許請求の範囲)研究]

United States Patent 7,362,999
"Method and system for customized music delivery"

【分析】
(1) AppleのiPod、iTune(登録商標)のような、音楽配信技術と自動車オーディオとを足し合わせたような技術に関するクレーム。
(2) 周知の構成のアセンブリの要素が強いクレームとなっている。このようなクレームを嫌う人は多いのでは?システム(物)のクレーム、コンピュータプログラムのクレームも起草されている。
(3) "selecting"などの動詞は、動作主体が人間かコンピュータかで議論の対象となることがあるので、注意すること。
(4) "determine"、"measure"(特に名詞)などの語は、日本語にするときにどう訳すか困るときがある。
(5) システム的なクレームを起草する場合、侵害の訴追が容易であるか否かを考慮すること(クレーム構成要件すべてを実施する自然人や法人はありうるのか(ありえない場合には、共同不法行為などは考えられるか)?クレームの構成要素は、業としての実施の要件を満たすか?(日本特許法の場合)。いずれにせよ可能であれば、なるべく個々の装置で権利を取得する方がよい。
(6) "telematics" 【名】
 テレマティックス
 ・コンピュータ機器と移動体通信技術を組み合わせることによって、無線で情報を送受信できるようにする仕組みのこと。
 ・【語源】telecommunication(通信)+ informatics(情報科学)
 (英辞郎on the WEBより引用)

【以下、United States Patent 7,362,999より抜粋】

We claim:
1. A method for customized music delivery to a vehicle, the method comprising:
determining a playlist;
storing the playlist on a server;
selecting content corresponding to the playlist;
transmitting the content to the vehicle by satellite;
storing the content in a telematics unit; and
measuring revisions to the playlist.

2. The method of claim 1 further comprising:
determining play control parameters for the content;
storing the play control parameters on the server;
transmitting the play control parameters to the vehicle by satellite; and
storing the play control parameters in the telematics unit.

3. The method of claim 1 further comprising: determining associated content information for the content; storing the associated content information on the server; transmitting the associated content information to the vehicle by satellite; and storing the associated content information in the telematics unit.

4. The method of claim 1 further comprising revising the playlist stored on the server to generate a revised playlist.

9. A system for delivering systemized music to a vehicle, the system comprising:
means for determining a playlist;
means for storing the playlist on a server;
means for selecting content corresponding to the playlist;
means for transmitting the content to a vehicle by satellite;
means for storing the content in a telematics unit; and
means for measuring revisions to the playlist.

13. A computer readable medium for delivering customized music to a vehicle, the computer readable medium comprising:
computer readable code for determining a playlist;
computer readable code for storing the playlist on a server;
computer readable code for selecting content corresponding to the playlist;
computer readable code for transmitting the content to the vehicle by satellite;
computer readable code for storing the content in a telematics unit; and
computer readable code for measuring revisions to the playlist.

[TY(弁理士)]
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