SSブログ
米国特許(判例)の研究 ブログトップ
前の5件 | -

ワシントンDC便り(9) [米国特許(判例)の研究]

2009.7.6 CAFCでのOral hearing

今日も講義は休みです。昨日のうちにNYからワシントンDCへ戻り、今日はK社のKさんとともにCAFCでOral hearingを見学しました。実は、2009.6.15にRader判事を訪問した時に、判事は今日のOral hearingの見学に我々を誘って下さったのでした。せっかくOral hearingを見学させて頂くのだからと、我々は、Oral hearingまでの期間で予習をすることにしました。

とは言うものの、そもそもその日にOral hearingが行われる事件は何なのか?(Oral hearingを担当する判事が誰なのかを、事前に知ることはできないようでした)Oral hearingが行われる事件の地裁での判決文はどうやって入手するのか?など、予習をするための資料を準備することさえままならない状態でした。それにもかかわらず、それらの調査や資料の準備は、美しく知性にあふれたK社のKさんが、多忙の合間にささっとやって下さりました。なので私は、準備して頂いた資料をNYのセントラルパークのベンチで読んだだけで済みました(Kさん、その節はありがとうございました)。それでも、資料が大量だったため、ばっちり日焼けをしてしまいました。

central park.jpg


今日のOral hearingでは2つの特許事件がありました。特にそのうちの1つであるNystrom v. Trex Co.は大変興味深かったです。この事件は、特許権者であるNystromが、Trex製品1の特許権侵害を訴えた訴訟で一回負けた後、類似のTrexの製品2に対しもう一度侵害訴訟を提起したものです。

Nystromは「フローリング表面を構築する際の使用のための板」という発明に関する特許権者(USP5,474,831)です。一方、Trexは、Nystromの発明の製品と実質的に同一形状である製品を製造しています。この製品は、木そのものではなく、木を含む複合材料からなっています。

この事件では、Nystromの独立クレームの「板(board)」、「製造される(manufactured)」という文言に、木を含む複合材料からなるTrex製品2が該当するか否か、およびTrex製品1とほとんど変わらないTrex製品2に対して、再度侵害訴訟を提起できるのか、ということが争点でした。

Oral hearingは、最初に一方の当事者の代理人が意見を述べ、次にもう一方の当事者の代理人が意見を述べます。代理人が意見を述べている最中に、裁判官から代理人に対し質問がされます。この質問は非常に厳しいものであったようで、質問された代理人は非常に答え難そうになっていました。

Oral hearingの開始前に挨拶させて頂いた時には温和だったRader判事ですが、Oral hearingで見た判事は目つきが鋭く、裁判官のオーラを強く感じました。

CAFC.jpg


2009.7.7 ディスカバリー

今日は、ディスカバリーについての講義がありました。米国では、訴訟が提起されると、まずディスカバリーによって争点が整理され、トライアル(事実審理)に必要な証拠が準備されます。ディスカバリーの際には、一方の当事者は、相手方へ情報の開示を要求することができます。

情報の開示要求を受けた相手方は、秘匿特権(privilege)に該当する場合以外は、要求に応えて内部情報を開示しなければなりません。秘匿特権に該当するものとしては、クライアントと代理人とのやり取りに関するものなどがあります。秘匿特権を主張すべきものを誤って相手方に開示してしまうと、その後秘匿特権を改めて主張することは不可能です。このため、相手方に開示を要求された証拠が、秘匿特権を主張すべきものか否かの判断には、慎重を期す必要があります。

また、ディスカバリーの結果、特許権者側がその特許権の特許性に重大な影響を与える先行技術を審査時に知っていたにもかかわらず、提出しなかったことが明らかになると、フロード(不正行為)があったものと認められ、権利行使ができなくなる場合があります。このため、出願時には、知っている先行文献を特許庁へ開示することにより、情報開示義務(IDS)を果たすことが重要です。


2009.7.8 損害と積極的な防御

今日は、損害と積極的な防御に関する講義がありました。特許権を侵害された特許権者は、差止請求、損害賠償請求、および輸入差止請求などの法的救済を受けることができます。このうち損害賠償請求の際には、特許権者が侵害によって失った利益や実施料相当額を損害額として請求することができます。特許権者自身が特許権に係る製品を製造販売していない場合には、侵害者が得た利益を特許権者が失った利益として請求することもできるようです。また、訴訟で必要になった弁護士費用を請求することもできます。

さらに、アメリカ独自の制度として三倍賠償というものがあります。三倍賠償とは、侵害が故意に行われた場合などに、裁判官が損害額を三倍まで増額することができる制度です。侵害が見つからなければよいという考えで侵害が横行するのを防ぐという意味で、三倍賠償は非常に有効であると思います。

一方、損害賠償額は、訴訟の提起から6年以上前の侵害行為に対して請求することはできません。また、特許権者が損害賠償請求するためには、特許表示または侵害の警告が必要です。


今週でBSKBの研修がいよいろ終了します。残り少ないワシントンDCでの生活を楽しんでいます。今日は、
Stein McEwen LLP
http://www.smiplaw.com/
のパートナーでいらっしゃるMcEwenさんに、ホワイトハウスの近くにあるオープンテラスのレストランに連れて行っていただきました!

椿特許事務所
弁理士IT

WELKER BEARING v. PHD (means-plus-functionクレーム解釈)(4) [米国特許(判例)の研究]

II

Before the district court, Welker Bearing accused two PHD products, the “Clamp I” and “Clamp II” devices, of infringement. The chronology of PHD’s development of its Clamp I and II devices is relevant to this appeal. In early 2004, PHD engaged in discussions with General Motors (“GM”) regarding the design of a new pin clamp for its assembly lines. At one meeting, PHD officials met with GM officials in a GM room where one of Welker Bearing’s pin clamps was on display. The parties dispute whether PHD saw the internal workings of Welker Bearing’s clamp at that time. Later, PHD developed prototypes of its Clamp I device, which uses a rotational mechanism to move clamping fingers into and out of the pin clamp.

In October 2004, shortly after the September 7, 2004 issuance of the ’478 patent, Welker Bearing learned from GM that PHD had developed the Clamp I device. Soon thereafter, Welker Bearing notified PHD in writing that it believed Clamp I infringed the ’478 patent. Officials from the two companies met to discuss the dispute in November 2004. PHD asked for a license to sell Clamp I. Welker Bearing refused. After this meeting, PHD developed a modified design, Clamp II, which lacks a rotating central post for moving clamping fingers in and out of the locating pin.


【メモ】

・訴外の第三者として、ここ最近ニュースとなったGM社が登場する。アメリカ訴訟のディスカバリー手続きで、このような企業情報が証拠として出てくることで、訴訟の優勢・劣勢が見えてくる(アメリカの法律関連の映画でも、ここが一番の見所となる。下記「エリン・ブロコビッチ」とか)。早期の和解につながるので、訴訟経済上好ましい制度である・・・、と教科書には書いてあるが、ディスカバリー手続き自体のコストと労力と時間は大変なものである。

・PHDの製品
 クランプI ・・・rotationあり
 クランプII ・・・rotationなし

・Welkerの特許
 '478特許 ・・・rotationの限定あり
 '254特許(継続出願) ・・・rotationの限定なし

よってクランプIIは、'478特許の文言非侵害となる。また、クレーム文言の「形式的な比較のみ」からいうと、クランプIIは、'254特許の文言侵害となる。また、クランプIは、'254特許および'478特許両者の文言侵害となる。


【日誌】

N弁理士、S弁理士と、外国人のM氏、R氏、J氏とで、新生のI特許事務所を見学させて頂く。余裕のある広くきれいなオフィス、作業のしやすい環境、優秀な弁理士とスタッフ。見習うところが多かった。その後、U先生を交えてA亭へ。日本語、英語が飛び交う中、中国人のスタッフに運んで頂いた韓国焼き肉を食べる、という国際色豊かなものとなった。R氏からは、ワシントンDCのよい店の情報など教えて頂く。その後は、・・・(時間がないので、省略)。


エリン・ブロコビッチ コレクターズ・エディション [DVD]

エリン・ブロコビッチ コレクターズ・エディション [DVD]

  • 出版社/メーカー: ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
  • メディア: DVD



椿特許事務所
弁理士TY

WELKER BEARING v. PHD (means-plus-functionクレーム解釈)(3) [米国特許(判例)の研究]

These later claims recite a finger mechanism that does not explicitly include rotational movement.

This ’254 patent issued on July 5, 2005. Claim 1 of the ’254 patent reads:


A locating and clamping assembly comprising:

a body defining an internal cavity and an opening from said cavity to the exterior of said body;

a locating pin disposed in said cavity and extending along an axis A out of said opening to a distal end;

an actuator for moving said locating pin rectilinearly along said axis A into and out of said opening;

at least one finger supported by said locating pin adjacent said distal end;

said assembly characterized by a mechanism for moving said finger along a straight line into and out of said locating pin perpendicular to said axis A in response to said rectilinear movement of said locating pin.


【メモ】

継続出願で新たに起草されたクレーム。最初(親出願)のクレームから比べると、「rotation」の限定も無くなり、かなりすっきりしたよいクレームとなっている(いろいろと突っ込みどころもあるが)。


【日誌】

5月末に若干ぐずついた空模様も顔色を変え、さわやかな6月のスタートとなりました。

面白い発明に出会うことができたり、弁理士M氏、Y氏に事務所に立ち寄って頂いたり、近くのブリーゼタワーにSEAMOや藤井フミヤが来たりなどイベント事が多々あり、西梅田で楽しく仕事をしています。

弁理士M氏、Y氏とは、court(法廷)の方ではなく、tennis courtの方で次回お会いしたく思っています(後者のcourtではどうぞ遊んでやってください)。

下の写真は、人がいなくなった後のブリーゼタワー1Fメディアコートにて。詳細は、下記URLから。
http://breeze-breeze.jp/event.html


ffujii.jpg

椿特許事務所
弁理士TY

WELKER BEARING v. PHD (means-plus-functionクレーム解釈)(2) [米国特許(判例)の研究]

WELKER BEARING COMPANY v. PHD, INCORPORATED

....

【Welker Bearingが最初に出願した’478特許のクレーム1】

A locating and clamping assembly comprising:

a body defining an internal cavity and an opening from said cavity to the exterior of said body;

a locating pin disposed in said cavity and extending along an axis A out of said opening to a distal end;

an actuator for moving said locating pin rectilinearly along said axis A into and out of said opening;

at least one finger supported by said locating pin adjacent said distal end for movement radially into and out of said locating pin transversely to said axis A of said locating pin;

said assembly characterized by a mechanism for rotating in response to said rectilinear movement of said locating pin for moving said finger radially.

---
This claim explicitly requires a rotational movement mechanism for extending and retracting the fingers. However, the PTO allowed the claims of the ’478 patent without any focus on rotational movement as a required limitation for allowance over the prior art. Welker Bearing took the PTO’s lack of comment on the rotational characteristic as an invitation to file a continuation application with broader claims.

...

【メモ】

・日本でも欧米でも、クレームドラフトに慣れた実務家であれば、特段の事情が無い限り、クレーム中においては、(1)不要な限定は入れずに、かつ(2)先行技術との差異を表現しようとする。本ケースでは、「rotating」の文言(およびそれに関する限定)がメインクレームに入っていたことが、後々の問題を引き起こすこととなっている。

・また、クレームが「characterized by」形式のクレームとなっている。その形式としたことの善し悪しを突き詰めてゆくと、結構奥が深い。(出願時の発明者の認識はどうだったのか(発明と捉えていたものは何だったのか)?)

・発明者が「rotating」を必須ととらえていたとしても、弁理士としては、「rotating」が本当に必須の構成であるのか、それに代替できる手段はないのかを発明者と相談して、「広く強いクレーム」を起草すべき。また、明細書には、その広いクレームをカバーする実施例を追加するべきである。

・このケースを見ても、出願時点の明細書やクレームがいかに大事かが理解できる。(が、それを本当の意味で理解している人は少ない。)

・審査経過に基づいて、より広いクレームで継続出願をする、という戦略は評価できる。ただ、最初からその広いクレームをドラフトしておく方がよい(様々な事情があることは承知の上で)。


椿特許事務所
弁理士TY

WELKER BEARING v. PHD (means-plus-functionクレーム解釈)(1) [米国特許(判例)の研究]

WELKER BEARING COMPANY v. PHD, INCORPORATED

....

Welker Bearing’s ’478 and ’254 patents, which share identical specifications, claim pin clamps that hold a work piece securely in place during welding and other manufacturing processes. The disclosed pin clamps feature a bullet-shaped locating pin (32 in Fig. 1A below) that is inserted into a hole in a work piece. Fig. 1B below shows the disclosed pin clamp holding a work piece in place. An actuator (52 in Fig. 1A) propels the locating pin through the hole in the work piece. As the locating pin slides through the work piece’s hole, clamping fingers (60 in Fig. 1B) emerge out of the pin clamp. These fingers hold the work piece firmly in place against an annular ring that sits below the locating pin. The actuator provides a clamping force between the fingers and the work piece.

welkerpat.JPG
...

【メモ】

WELKER BEARING特許の明細書に開示された、「ワークを保持するピン留め」の構造について。位置決めピンがワーク片の孔部を通る方向にスライドするに伴い、「clamping fingurs(図1B符号60)」が位置決めピンから出てくる。clamping fingursは、位置決めピンの下に位置する環状のリングとの間でワークを固定する。


【日誌】

先週末に、YT先生とAさんの結婚式へ。華やかな、とてもよい式でした。誠におめでとうございます。会場では著名な先生方にお会いすることもでき、それもよい刺激になりました。こちらも心を入れ替えて、今日からまた新たな気持ちで弁理士業務に励みます。


椿特許事務所
弁理士TY

前の5件 | - 米国特許(判例)の研究 ブログトップ

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。