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技術理解の重要性 [弁理士の仕事]

特許を扱う弁理士として「よい仕事」をするためには、法律や判例だけを勉強してもだめであり、科学や技術などの理科的知識を深めることも極めて重要である。弁理士は、科学や技術の結集である発明の内容を理解して、それを他人が理解できるように説明することが仕事の核をなしているからである。(ちなみに、昔の弁理士試験では、法律科目5科目に加えて、選択科目3科目が論文試験として課せられており、理科系の弁理士は通常、材料力学や電磁気学など3科目の理科系科目を受験していた。)

では、科学や技術など理科的知識を、弁理士はどの程度深める必要があるのか?

この点、「技術がわからなくても、明細書は書ける」、「発明者ほどの理解は必要とされない」という意見もあるが、やはり、「知識・理解が深ければ深いほど、よい仕事ができる」という意見に異論はないと思われる。一般に、科学や技術の理科的知識・理解が深い代理人は、以下のような能力がある。

・発明の基本原理を理解できるので、特許請求の範囲を可能な限り上位概念で表現できる(第三者が避けにくい、強いクレームを作成することができる)。

・知識があるので、明細書の実施例を詳細に記載することができる。このため、後に補正・訂正が必要になったときでも、新規事項を避けながら強い権利での特許を取得することが可能となる。

・正確な内容を記載でき、また、専門用語を使う必要があるときには、それを正確に使うことができるので、明細書の記載不備が少ない。

・発明者など技術者とのコミュニケーションがうまくいくので、短時間でよい情報伝達ができる。また、弁理士から発明者への専門知識を生かしたよい提案、アドバイスができるので、さらなる新しい発明・実施例が生まれやすい。

・審査官・審判官・裁判官とのコミュニケーションがうまくいくので、短時間でよい情報伝達ができ、結果として、よい特許取得・よい結果に結びつくことが多い。

・公報や発明提案書などの行間を読むことができ、技術内容の間違った理解や意味の取り違えがないので、仕事がとんでもない方向に進んでいったり、発明者や審査官と話がかみ合わないといった事態が発生しない。

・仕事が正確で、早い。


なお、基礎的な知識は極めて重要であるが、技術は日進月歩で進歩しており、また、書籍やインターネットでは得られない知識も多い。常に科学・技術に興味を持って、知識をアップデートすることが望まれる。

また、科学や技術などの理科的知識があれば、それだけで上記のようなよい仕事ができる、というわけではない。当然ながら、よい仕事をするためには、科学や技術などの理科的知識と共に、特許法などの法律や審査基準、判例、特許実務の常識、語学など様々な知識をあわせて身につけ、特許実務を研究する必要がある。


椿特許事務所
弁理士TY

拒絶理由通知・拒絶査定対応業務(特許) [弁理士の仕事]

拒絶理由通知・拒絶査定対応業務(特許)

(1)拒絶理由通知・拒絶査定対応業務(特許)の重要性

 防衛的な出願ではなく、権利取得を積極的に狙った特許出願を行ったにもかかわらず特許を取得できなかった場合、または狭すぎる(使えない)権利範囲でしか権利の取得ができなかった場合、それまでの研究開発、発明発掘、出願・審査請求にかかった莫大な時間・労力・費用が無駄となる。それどころか、本来秘密にすべき自社の技術・研究開発の動向を、費用と労力を使って競業他社に開示したこととなり、事業を守ることを目的としていたはずの特許出願が、逆の結末となってしまう。特に、特許情報の流通が事実上ボーダレス化・無料化した現代、日本で生まれた優秀な技術の内容が権利化されぬまま海外で流通してしまうことは、国益の上でも可能な限り避ける必要がある。

 以上の理由から、権利取得を狙って特許出願・審査請求をしたのであれば、よい権利をなるべく早く取得するべきである。その観点から、拒絶理由通知・拒絶査定対応業務の品質を上げることが重要となってくる。


(2)拒絶理由通知・拒絶査定対応業務(特許)の流れ

(2-1)拒絶理由と引例の分析・対応方針(クレームの補正、反論の骨子)の決定

 世界各国毎に、独自の特許法、審査実務、判例が存在する。国に応じた対応方針を決定することが必要(各国の情報を学んでおく必要がある)。一方で、各国特許庁間で、審査情報が共有されているケースもあるので、他国の審査の状況を考慮することも有用な場合が多い。

 また、法律や審査基準などは改正があり、出願時点の法律・審査基準が適用される場合が多い。どの時代の法律・審査基準が適用されるのか、誤ることのないようにする。

 基本的には、以下の事項を考慮して、対応方針を決定することとなる。

(ア)(補正をする・しないに関わらず、)そのクレームで特許を取得できるのか?

(イ)(補正をする・しないに関わらず、)そのクレームで、「よい権利」(使える権利)となるのか?

(ウ)補正をする場合、新規事項にならないか?逆に、新規事項を恐れるあまり、補正可能であるにもかかわらず補正をあきらめていないか?

(エ)特許を取得し、かつ禁反言をなくすため、意見書(反論)の骨子はどのようなものとすべきか?(事実認定について争うのか、法の適用(引用文献の組み合わせ非容易、阻害要因、引用文献での構成要件の開示など)について争うのか、手続的な瑕疵について争うのか?など)

(オ)STF関連など、手続的なことについて対応は問題がないか。

(カ)面接審査・技術説明会などをした方がよいか。

(キ)分割出願などをした方がよいか。

 上記(ア)~(キ)を判断するためには、専門知識(法律、審査基準、判例、発明の対象となる技術の深い理解、技術常識など)が必要となる。一般によい経験を積み、使える知識を増やせば増やすほど、よい仕事ができるようになる。よい仕事とは、よい結果に結びつく仕事をいい、よい結果とは、「特許率の向上」と、「よい権利での特許取得」の双方を満たすことである。

 例えば上記(ア)の判断を行うためには、教科書的知識を得ることも必要だが、実際の中間処理業務の件数をこなすこと、中間処理の経験が少ない時にはよい先輩の指導を仰ぐことなどが重要となる。また例えば上記(イ)の判断を行うためには、侵害争訟、ライセンス交渉などの経験を積む必要がある。特に、「よい権利」の考え方は、先発メーカーであるか後発メーカーであるか、権利を最終的にどのように用いたいのかなどにより変わる場合が多い。この点で、出願人の立場を知ることも対応方針決定に不可欠である。


(2-2)対応方針にあわせた書面の作成

 上記(2-1)で決定された方針を最大限に生かし、また、補正の制限など、各種制限をクリアするように、補正書、意見書(補正の根拠、拒絶理由に対する反論を含む)を作成する。

 補正書においては、

 ・クレームに不要な限定がないか、

 ・同様の権利範囲が取得できて、さらによい言い回し(新規事項の可能性を減らすことができる言い回し、強い権利となる言い回し、特許の可能性を上げることができる言い回し)がないか、

 などを考慮することで、強い権利を狙いながら拒絶を回避できる補正書を作成する。

 意見書においては、

 ・おかしな議論をしていないか(“リパーゼ判決”を無視した議論、クレームからは言えない実施例に対する議論、本件発明に対しての引用例の差異の主張などをしていないか)、

 ・将来、禁反言となる主張をしていないか、

 ・主張を、審査基準や判例で補強できないか(特に、新規事項、進歩性の判断実務は、近年大きく変わってきており、弁理士の実力が試される)、

 ・参考図などを添付し、分かり易く審査官に説明できないか、

 などを考慮することで、理論的な意見書、強い権利を狙いながら拒絶を回避できる意見書を作成する。


(2-3)書面提出

 当然ではあるが、書面には提出期限があるので、期限管理・仕事のスケジューリングはおろそかにできない。余裕をもって提出する。
 また、面接審査・技術説明会などを行う場合は、その資料の準備、審査官・審判官とのスケジュールの調整を行う。


椿特許事務所
弁理士TY

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