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進歩性に関する近時の判断傾向(平成20年(行ケ)第10398号) [進歩性の研究]

【出願時に当業者が発明の解決課題を認識していないこと、および動機付けがないことは、進歩性を肯定する理由となる】

平成21年10月22日判決言渡
平成20年(行ケ)第10398号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成21年9月17日

・・・・
ウ したがって,本件各発明において,個々の化粧用パック材にWJ加工を施すことにより解決すべき主たる課題は,化粧用パッティング材から個々の化粧用パック材を剥離する際に生じる毛羽立ちの防止にあったということができる。

エ そして,化粧用パッティング材から個々の化粧用パック材を剥離する際に生じる毛羽立ちを防止することが,本件出願当時の当業者にとって自明又は周知の課題であったと認めるに足りる証拠はなく,かえって,被告が,化粧用コットンはコットン繊維を積層したものであるため層の境界から容易に剥離することのできるものであると主張するところ(取消事由2に係る主張(3)ア)に照らすと,本件出願当時の当業者は,化粧用パッティング材から個々の化粧用パック材を剥離する際に生じる毛羽立ちを防止することを解決課題として認識していなかったものと認めるのが相当である。

・・・・

イ 上記引用例の記載によると,WJ加工は,ふっくらと仕上げられ,内部に空気を含んでかさ張った状態となる単位コットンを圧縮包装するとの構成を採用した発明において,単位コットンをふっくらとした,毛羽立ちが少なく,肌に優しい状態のものに仕上げるための手法の一例として挙げられているにすぎず,その他,引用例には,積層構造体として形成された単位コットンから各層を剥離した際に生じる毛羽立ちを防止するため,各層にWJ加工を施すことを動機付ける旨の開示又は示唆はない。

・・・

ウ そして,その他,本件全証拠によっても,化粧用パッティング材(化粧綿)から剥離される各層(各シート部材)にWJ加工を施すことを動機付ける旨の開示又は示唆のある刊行物(本件出願前に頒布されたもの)が存在するものと認めることはできない。


(3) 本件審決の判断の当否

上記(1)及び(2)のとおり,化粧用パック材にWJ加工を施すとの本件各発明の構成は,化粧用パッティング材から個々の化粧用パック材を剥離する際に生じる毛羽立ちの防止を主たる解決課題として採用されたものであるところ,同課題が本件出願当時の当業者にとっての自明又は周知の課題であったということはできず,また,引用例を含め,化粧用パッティング材(化粧綿)から剥離される各層(各シート部材)にWJ加工を施すことを動機付ける旨の開示又は示唆のある刊行物(本件出願前に頒布されたもの)は存在しないのであるから,仮に,本件審決が判断したとおり,引用発明に周知事項1及び2を適用して各層(化粧用シート部材)の側縁部近傍を圧着手段により剥離可能に接合するとともに,各層を化粧用パック材として使用することが,本件出願当時の当業者において容易になし得ることであったとしても,また,引用発明の単位コットン(化粧用パッティング材)がWJ加工を施したものであることを考慮しても,これらから当然に,各層を1枚ごとに剥離可能としてパック材として使用する際にその使用形態に合わせて各層にWJ加工を施すことについてまで,本件出願当時の当業者において必要に応じ適宜なし得ることであったということはできず,その他,引用発明の各層にWJ加工を施すことが本件出願当時の当業者において必要に応じ適宜なし得たものと認めるに足りる証拠はないから,相違点1に係る各構成のうち化粧用パック材にWJ加工を施すとの構成についての本件審決の判断は誤りであるといわざるを得ない。

この点に関し,被告は,審査基準が想定する当業者であれば,引用発明の各層を1枚ごとに剥離可能としてパック材として使用するときは各層にWJ加工を施すものであるなどと主張するが,上記説示したところに照らすと,そのようにいうことはできないし,その他,被告主張に係る事実を認めるに足りる証拠はない。

したがって,化粧用パッティング材(化粧綿)から剥離された各層(各部材)にWJ加工を施すことは引用発明から容易に想到し得るものではないのに,この点を看過した相違点1についての本件審決の判断は誤りであるというほかなく,原告主張の取消事由2は理由があるといわなければならない。

3 結論
以上の次第であるから,取消事由2に理由がある以上,その余の各取消事由について判断するまでもなく,本件審決は取り消されるべきものである。

知的財産高等裁判所第4部

裁判長裁判官 滝澤孝臣
裁判官 本多知成
裁判官 浅井憲
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【メモ】

知的財産高等裁判所第3部から始まったと思われる、進歩性の判断基準をより客観的、明確にしようとする流れは、産業界にとって好ましいものと考える。解決課題の認識や、動機付けがあったかどうかに着目すべきことは、29条2項の法文(審査対象である明細書が存在しない時期を示す「特許出願前に」の文言)から必然であると思うし、特許を拒絶・無効にする場合の挙証責任の配分を考えても、最近の知財高裁の判断は正しい方向に向かっていると思う(思えば、昔(15年ぐらい前)の審査基準では、「目的、構成、効果の全てを考慮して進歩性の有無を判断する」旨が書かれていたように覚えている)。

世界水準から見た日本の進歩性判断の水準は、もちろん時代によって異なるが、「日本特許庁は、なぜゆえそこまで厳しく審査をする必要があるのだ」という見解を持つ人は多かったようであり、「日本の特許庁は、特許庁(Japan Patent Office)でなく、拒絶庁(Japan Rejection Office)だよ」、という外国の弁理士の間でのジョークがあるぐらいである(僕が言いだしたわけではないので、特許庁関係の方はどうか気分を悪くされないで下さい)。

椿特許事務所
弁理士TY
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